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BEPSとは何か?ビジネスパーソンとして知っておきたい基礎知識

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最近、新聞紙面で見ることも多くなった「BEPS」という4文字。何のことだか紙面を読んでもわかりづらい。国際税務の世界に出てくる単語だが、国際税務とかかわりを持たない人には非常に分かりにくい。今回は、この取っ付きにくい「BEPS」について例を交えながら解説する。

 

解説を読んでも、さっぱり理解できない…

BEPS(Base Erosion Profit Shifting)は日本語では「税源浸食と利益移転」と訳されているのだが、この訳がさらにわかりづらくしている。国税庁のホームページによれば「多国籍企業等が、グループ関連者間における国際取引により、その所得を高課税の法的管轄から無税又は低課税の法的管轄に移転させることで、国際的二重非課税を生じさせるもの」らしい。
国税庁の定義では何のことかさっぱりわからないので、以下でBEPSをザックリと理解するところからはじめたい。

 

BEPSは純利益を最大化するためのもの

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BEPSを理解する際に、BEPSという言葉の訳や定義から調べるのではなく、どのようなことが行われているのかをイメージするのが良い。新聞などのBEPSの記事によく出る企業名は決まっている。AppleGoogleスターバックスAmazonなどだ。では、彼らは一体何をしているのか。まず、彼らの経営方針を理解したい。

 

純利益の最大化が経営者の使命になっている

彼らの経営方針にあるのは純利益を最大化したいという考え方。アメリカをはじめとして欧米の経営者は純利益を最大化することが使命といってもいい。純利益を多く残せば、株主への配当を増やすことが出来るからである。根本には欧米流の「会社は株主のもの」という考え方が顕著に現れている。

 

純利益を最大化するために

では、なぜ純利益を最大化する際にBEPS、すなわち国際税務の話が出てくるのか。それは、純利益が税引後の利益だからである。企業は儲けが出れば当然税金を支払うのだが、この当然支払うとされている税金を極力抑えて純利益を最大化しようというのである。

日本の企業内では昔から税金は企業活動を行った結果支払うものとされてきた。そして、企業は社会の公器とされ税金を多く払うことは社会への貢献度が高いという風潮があったことも事実だ。実際に経営陣が財務目標を立てる際に使われる指標は税引前の「経常利益」であることが多い。

しかし、欧米企業では税金はマネジメントの対象とされている。つまり、税金は企業経営を行っていくうえでは労務費やオフィス賃料と同じく、コストとして認識されている。そのため、経営戦略や事業戦略を立てる際には税務戦略は最重要戦略とされるのだ。

 

どこにも税金を納めないグローバル企業が出現

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先ほど挙げたAppleGoogleスターバックスAmazonなどの企業は、2カ国以上の国で、税率や税務ルールの違いを利用して、企業は税金を払わない、若しくは著しく低く抑えるスキームを作り上げている。次に例を見てみよう。

 

イギリスとスイスの税率の違いを利用

スターバックスの例を取って説明する。スターバックスはアメリカのシアトルに本社を置くグローバル企業で世界中に展開している。この例には、イギリスとスイスが出てくるが、スターバックスの目的はそれぞれの国における税務の最適化ではない。常に視点はシアトルの本社から、全世界でスターバックスが支払う税の最適化に向けられている。
スターバックスはイギリス国内で税金を過度に抑えていた。それを実現した手法の一つが国家間の税率の違いを利用する方法だ。イギリスと比べてスイスは税率が低い。そこでイギリスのスターバックスは、イギリス国内での利益を、スイスに移すことによって支払う税金を抑制している。
では、どのようにしてイギリスの会社の利益をスイスに移すのか。具体的には、イギリスのスターバックスは、スイスの子会社を経由してコーヒー豆を購入している。南米やアフリカで取れたコーヒー豆を、(端から見れば必要のない)スイスの子会社経由でイギリスに輸入する。イギリスのスターバックスはスイスの子会社に対して手数料を加えて支払いを行う。こうして、イギリス国内ではコーヒーの原価が高くなり、利益が出ない。イギリスで出るはずであった利益は、結果的にはスイスに移っているのだ。
シアトルの本社から見ると、同じ金額の利益を出した場合、イギリスの税率で支払うよりも、スイスの税率で支払った方が多くの純利益が残る。これが税率の違いを活用したBEPSの例だ。

 

税務ルールの違いを利用

「ダブルアイリッシュ&ダッチサンドウィッチ」という有名な手法がある。アイルランドに2つの会社を持ち、資金をオランダ経由にすることからこう呼ばれる。AppleGoogleAmazonといった企業がこの手法を利用していることが知られているが、国際社会の批判によるアイルランドの税制変更で使うことが出来なくなる。そこではポイントだけ説明する。(「ダブルアイリッシュ&ダッチサンドウィッチ」の詳細は検索すると多くの解説記事が出てくる)

大きなポイントは、国による課税の考え方の違いを利用している点である。日本やアメリカは居住地国課税といって国内の所得以外にも海外での所得を含めて、全世界での所得に対して課税する。一方で、アイルランドは源泉地国課税といって、アイルランドに登記してある会社であってもアイルランドで事業実態のない会社は税金を支払わなくても良い。この根本的な税に対する考え方の違いから生じる隙間を突き、世界中どこからも課税されない税務ストラクチャーを作り上げてしまったのだ。

 

「BEPS」に対する国際社会の動き

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AppleGoogleスターバックスAmazonをよくよく見てみると、世界中で事業をしているのに、どこの国にも税金を納めていたなかった、という事実に気づいた国際社会。BEPS自体は合法であるが、各国の税収が減少している現代では、社会的には歓迎されておらず、世間の目は厳しい。イギリスではスターバックス不買運動まで起きた。
2015年にはOECDによってBEPS15の行動計画というBEPS対策が策定された。このBEPS対策措置にOECDを含む約90か国が歩みをそろえていく方針が示された。

 

まとめ

最後に簡単にBEPSとは何かを定義する。「BEPS」とは「2か国以上で事業を営む企業が、各国の税率や税務ルールの違いを利用して、税金を最小限に抑える行為のこと」と言える。
これからは新聞などで「BEPS」を目にしても困らないはず。経営者が何を考えているのか、国際社会はどう歯止めをかけていくのか。今後、世界での動きに加えて、日本の動きにも注目していきたい。